【デリカフーズ】野菜・果物を中心とした食生活による生活習慣病予防や健康寿命延伸③
デリカフーズ株式会社
事業統括本部 品質保証室長
有井 雅幸 氏(薬学博士)
3.我が国の「食と健康」等に関する疫学調査研究事例
国立がん研究センターでは、いろいろな生活習慣と、「がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気」との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。これまで1990年と1993年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所管内に住んでいた40~69歳の方々の内、研究開始から5年後の調査時点に「循環器疾患、がん、肝疾患」のいずれにもかかっていなかった男女約9万人を、2014年まで追跡した調査結果にもとづいて、「食事由来の抗酸化能と死亡との関連」を調べた結果が専門誌(The Journal of Nutrition 2019年9月)に報告されましたので紹介します。
1)研究目的 ~食事に含まれる抗酸化能と死亡リスクの関連性を解析~
日本人の食事には野菜や果物、緑茶といった抗酸化物質を多く含む食品が豊富で、これらが日本人の長寿に貢献している可能性がありました。本研究では、研究開始から5年後に行った食事調査票アンケートの結果を用いて、食事全体の抗酸化能の指標である鉄還元抗酸化能(FRAP法)と酸素ラジカル吸収能(ORAC法)を算出し、その後の死亡リスクとの関連を検討しました。
2)抗酸化能に寄与する食品とは?
研究開始から5年後に行った食事調査票アンケートの結果を用いて、食事由来の抗酸化能値を算出した結果、抗酸化能に主に寄与する食品は、高い順に緑茶(FRAP法:58.5%、ORAC法:34.3%)、果物類(FRAP法:16.7%、ORAC法:31.9%)、野菜類(FRAP法:11.6%、ORAC法:17.5%)でした。
3)研究結果 ~食事由来の抗酸化能が高いほど死亡のリスクは減少~
食事由来の抗酸化能値を4つのグループに分類し、約17年(中央値)の追跡期間に把握された死亡(総死亡・がん死亡・循環器疾患死亡・心疾患死亡・脳血管疾患死亡)との関連を調べました。分析にあたって、年齢、性別、地域、肥満度、喫煙、身体活動、職業、ビタミンサプリメントの使用、エネルギー摂取、コーヒー摂取、塩分摂取、カルシウム摂取、カリウム摂取、マグネシウム摂取、食物繊維摂取、糖尿病・高血圧・脂質異常症の病歴の影響をできるだけ取り除きました。その結果、食事由来の抗酸化能が高いほど死亡リスクが低下する傾向を認め、抗酸化能値が最も低いグループに比べ最も高いグループでは、総死亡リスクがFRAP 法で15%、ORAC法で16%低下していました。死因別にみると、循環器疾患死亡、心疾患死亡、および脳血管疾患死亡との間で統計学的に有意なリスク低下を認めました。一方、がん死亡との関連はみられませんでした。
4)結論と今後
本研究は食事由来の抗酸化能と死亡との関連を調べたアジアで初めての研究でした。今回の研究では、抗酸化能が高い食事をしている人は死亡リスクが低く、特に循環器疾患死亡との関連がみられました。この結果は、アメリカおよびフランスの先行研究とも一致しています。野菜、果物、緑茶といった抗酸化能が高い食品を日常的に摂取することは健康寿命の延伸に繋がることが期待できます。一方、がん死亡との関連はみられませんでしたが、理由ははっきりしませんでした。がんは部位によってリスクとなる要因が異なり、また発がんのメカニズムにおける抗酸化物質の関与が複雑なためではないかと思われました。なお、野菜摂取による部位別がん(胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、乳がん等)では発症リスク低減効果が期待されています。
Profile

有井 雅幸 氏
デリカフーズ株式会社
事業統括本部 品質保証室長
出身地
兵庫県神戸市
最終学歴
東京理科大学 大学院 薬学研究科 博士課程修了(薬学博士)
職歴
公益財団法人 癌研究会癌研究所(特別研究員)
キッコーマン株式会社(機能性食品グループ長)
(その間の役職)
公益財団法人 日本健康・栄養食品協会(評議員)
健康と食品懇話会(副会長)
内閣府 食品安全委員会/厚生労働省リスクコミュニケーション パネリスト
農林水産省 食料産業局 食品安全マネジメント等推進に向けた準備委員会委員
農林水産省 消費・安全局 食品トレーサビリテイ検討会委員
農林水産省 生産局 農業資材審議会専門委員
農林水産技術会議 異分野融合(情報インフラ構築)研究戦略検討会委員
日本GAP協会アドバイザー